2月の観劇予定
「今年の演劇どれを見る?」リストからは、「世界は舞台、男も女もみな役者」の台詞が有名な『お気に召すまま』文学座公演(『9days Queen』は3月)。
『お気に召すまま』
フランス。とある公爵領では、公爵の実の弟フレデリックが公爵領を簒奪。追放された公爵は、自分を慕う従者を連れ、アーデンという名の森の中で暮らしている。簒奪者フレデリックは、公爵の娘ロザリンドにだけは慈悲を与え、自身の娘シーリアと共に自分の屋敷に住まわせてきたが、ロザリンドの美徳に次第に彼女をも疎ましく思うようになり、とうとう追放を言い渡す。しかしロザリンドを姉妹のように慕うシーリアがロザリンド一人では行かせられないと言い、二人はこっそり一緒に屋敷を出る。ロザリンドは男装を、シーリアは村娘の姿をし、身分を隠した二人は、屋敷のお抱え道化を道連れにロザリンドの父である公爵のもとへと、アーデンの森へ向かう。
一方、同じ領地内の貴族、サー・ローランド・ド・ボイスの息子たちの間にも同様の不和があった。父亡き後、家督を継いだ長兄のオリヴァーは、人々の尊敬を集める末弟オーランドーを妬んでいた。長年兄から虐げられてきたオーランドーは我慢がならなくなり、兄オリヴァーの屋敷を出る。が、彼がたどり着いたのもまた、偶然アーデンの森であった…
シェイクスピア中期喜劇の代表作で、美しいアーデンの森を背景に、明るく楽しいラブコメディ。シェイクスピアは多くの作品の中で異なる空間をうまく使い分けているが、本作は他の作品ほどはっきりと分かれてはいないものの、やはり「王子様・お姫様」たちの主筋と、羊飼いたちの副筋という同時進行の二層の空間が見られる。また本作ではさらにアーデンの森の「中」と「外」に対比的な二つの社会(空間)が形成されているのが注目点である。本作の筋の中心に据えられた「取り違え」もまたシェイクスピア喜劇の常套手段であるが、この「取り違え」が本作では一番の魅力となっている。「取り違え」がどのように起こり、展開するのか、そして「森での暮らし」という、牧歌的でありながら永遠には続けられない暮らしとともにどう回収されていくのか、シェイクスピア喜劇の特徴が見事に凝縮された本作は見どころが多い。また、四大悲劇で発展した「妬み」のモチーフが、本作品にも見られる。
今公演では恐らくロザリンド・シーリアともに女優さんが演ずると思われるが、実はシェイクスピアが生きていた16世紀当時は、ロザリンド・シーリアのような、男装する若い女性の役には、顔かたちの美しい少年を起用していた。今で言えば、10代前半のジャニーズの美少年が若い女性役を演じるようなもので、それが当時の女性客の人気を集めていた。
『尺には尺を』
ウィーン。公爵ヴィンセンシオは、思うところがあり、国外へ旅に出るふりをして、その間、アンジェロに公爵としての全権を預け、自分の代理を務めさせる。
厳格なアンジェロは、早速長年使われず実質的に効力のなくなっていた法律を有効にし、その見せしめとなったのがクローディオだった。クローディオは婚約者ジュリエットと婚前交渉を持ち妊娠させたことで姦淫の罪に問われ、死刑を言い渡されたのだ。クローディオの妹イザベラは尼になるため修道院にいたが、兄の危機を聞いて、アンジェロのもとへ兄の命乞いに行く。
イザベラの嘆願を聞き入れず、血も通わないと思われたアンジェロであったが、イザベラのあまりの清純さに邪な欲望を抱くようになり、イザベラにクローディオを救う方法が一つだけあると言う。アンジェロの提案とはなんと、クローディオの命を救う代わりに、イザベラに自分に貞操を差し出せというものだった…
シェイクスピア後期の喜劇。同時上演の『お気に召すまま』とはだいぶ毛色が異なる作品。後期に入り、喜劇にそうしたのびしろがあったのかとうならされるほど、シェイクスピア喜劇は複雑さと深みを得る。常套手段の「取り違え」も、全く形を変えて現れる。「喜劇」とは本来、幸せな結末を迎える劇のことを指すが、果たしてこれを「喜劇」と呼べるのか。悲劇全盛期前夜のこうした後期喜劇は、「問題劇」と呼ばれている。
リスト外からはオペラ『蝶々夫人』を観劇予定。※所用で行けず。
私はオペラについては素人だが、日本人なら『蝶々夫人』と『夕鶴』は観ておいてもいいと思う。
オペラ『蝶々夫人』は、日本の長崎を舞台に、没落藩士の令嬢で今は芸妓となった「蝶々さん」と、任務で長崎に来たアメリカの海軍士官ピンカートンの悲恋の物語。イタリアの作曲家プッチーニ作(1904年)。
原作はアメリカの弁護士ジョン・ルーサー・ロングが1898年に発表した短編小説とされている。ロングは宣教師の夫と共に日本を訪れた姉から聞いた話とフランスの作家ピエール・ロティの『お菊夫人』(1887)をもとに小説を書いたそうだが、プッチーニもこの『お菊夫人』も参考にしているそう。『お菊夫人』は、ロティが自身の経験をもとに異国情緒あふれる日本での暮らしを微に入り細に入り記した小説で、当時のヨーロッパではかなり人気があったらしい。1854年にペリーによって開国がなされて以来、日本は開国から数十年経っていたが、まだまだ一般の人々が極東の異国日本について知る機会は乏しく、ミステリアスで魅惑的だったのだろう。というか、これだけ情報網が整った現代においても欧米人にとって日本と言えば「スシ・ゲイシャ・ハラキリ」なのか、演出家によっては蝶々さんが切腹してしまうこともあるらしい(後藤 81参照)。今回日本人である栗山民也さんがその『蝶々夫人』をどう演出するのか、興味深い。
また観劇という観点から、『蝶々夫人』を観ておくと、それをベースに舞台を日本からベトナムに移したミュージカル『ミス・サイゴン』がより楽しめる。・・・と思ったら今年7月・8月に『ミス・サイゴン』が帝国劇場で上演されるらしい(帝国劇場HP)。
[新国立劇場]
ちなみに新国立劇場では「当日学生割引」として、学生はチケットを半額で購入できる。
公演当日朝10:00から、残席がある場合のみ、ボックスオフィス窓口とチケットぴあ限定店舗にて販売いたします。1人1枚。電話予約はできません。要学生証(生徒の方は年齢証明ができるもの)。
残席状況によっては半額で舞台かぶりつきの最良席から演劇が見られるので演劇学生にはとてもありがたい制度。私も学生時代ずいぶんお世話になった。
学生以外には「Z席」というものがあり、座席数限定でどの公演でも1500円で観ることができる。ただし舞台が見え難い席とのこと(私は買ったことがないのでどの程度見え難いのか分からない)。
オペラ・バレエ公演:
オペラパレス公演の場合、Z席42席は、公演初日に先がけて全日程各20席を新国立劇場Webボックスオフィス(PC&携帯)にて抽選販売いたします。抽選販売の残席と22席を公演当日朝10:00から新国立劇場ボックスオフィス窓口にて販売いたします。電話予約はできません。 ※オペラ・バレエの中・小劇場公演も、販売方法は同様となります。枚数は公演によって異なります。 ※オペラ公演では、上記42席を販売後、3階L1-1,2および3階R1-1,2の計4席を販売します。いずれも1人1枚。ダンス・演劇・研修所(オペラ・バレエ・演劇)公演:
公演当日朝10:00から新国立劇場ボックスオフィス窓口にて販売いたします。1人1枚。電話予約はできません。
(いずれの引用も新国立劇場HP内「チケットについて」より)
国立の劇場でこのように劇場への敷居を低し裾野を広げようという活動をしているのはとても好感が持てる。
国立劇場が日本の伝統芸能を上演しているのに対して、新国立劇場は主に海外のオペラや演劇(小劇場もある)を上演しているが、さすが国立だけあって、いつも演目の質が安定している。建物も現代的でありながら特に夜は美しく、終演後に余韻に浸れる。ここも私の好きな劇場の一つ。
<書籍>
シェイクスピア『お気に召すまま』原文(アーデン版)・和訳本(小田島雄志訳)
オペラ『蝶々夫人』対訳本
オペラ入門書:筆者参照は左。
どちらも作品ごとに写真付きであらすじ、見(聴き)どころ、名演などが見開き2ページ程度に要領よくまとめられている。筆者が参照したような(切腹の演出)ちょっとした小話なども載っている。